ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、 独りで ぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。

池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、 そのまん中にある金色の蕊からは、 何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。

やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、 水の面を蔽っている蓮の葉の間から、 ふと下の容子を御覧になりました。

この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、 水晶のような水を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。